―やりたかったお店、ですね。お店のコンセプトに、「心に届く一杯を」と書かれていました。オープン時に目指されていたのは、お客様にゆったりと寛いでいただいて、その雰囲気の中で麺のおいしさを楽しんでいただけるお店ですか?
そうです。麺が主役のうどんを楽しんで欲しいと思っています。僕は素人からうどん屋をはじめましたから、今から味の追求をしても一筋の方には叶わない。何十年も作っている方には追いつけません。だから味については常にデータをとるようにしています。産地・気温・湿度、色々な要因で全く同じものは無いから、一定の幅におさめるように。お客様に安定した味を提供するために、それはきっちりとしています。はじめた頃は、製麺室で夜の2時とかまで計算して確認してましたね。きついけど楽しくてね。
あと、うちの場合はサラリーマンの方々がランチに来るような立地じゃないでしょう。そこをターゲットにするなら街中に作ればいい。ここは、女性グループやご夫婦、親子連れのお客様が多いです。さっと来てぱっと食べて帰るじゃなく、茹で上がるのを待って、その間は会話を楽しんでもらって、ゆっくりと召し上がって頂ける場所にしたいと思っています。それと改装するにあたって、設計の方に“和だけれどモダンな感じ”とお願いしましてね。出来る範囲で、エッセンスを入れ込んでもらいました。製材所さんにも一緒に行ったりしてね。カウンターは、4mの1本物から作りました。この壁も、はじめは土壁にしようとしましたが、予算の兼ね合いもあって、什器を作った残りを使って仕上げてもらいました。結果、良いアクセントになってくれています。
▲店内のアクセントになっているカウンター背後の壁。1本1本表情が異なる。(設計:町谷一成建築デザイン事務所)
▲落ち着きのある座敷席。
―お出でになっている方々も、うどんとこの雰囲気の両方を楽しんでいらっしゃるようでした。
そうですか。ありがたいですね。今年は台風が多かったでしょう。天候によっては“こんな日に来ていただけるか”という日もあったんですよ。店を開けるっていうのはお客様との約束だから、とにかく開けようと。そうしたらそんな日にもぽつぽつと来て下さったんですよ。本当にうれしかったですね。
―これから新たに取り組みたい事などがあったら、教えていただけますか?
とにかく今はまだ一生懸命やるだけですね。“守破離”という“~道”といわれる中での修業の段階でいうと、教えを守って、自分のものにして、レベルアップさせているところ。そこから自分なりの発想を加えて、創造していくまではまだまだですよ。だから偉そうなことは言えないです。必死です。良いことも悪いこともあるけど、成功の反対は失敗じゃなく妥協や断念なのだと肝に銘じています。
人間いつか死ぬでしょう。だったら、命の使い道として、僕が作ったものを召し上がった方が美味しいって言ってくれたら嬉しいですよ。その対価をいただいて、それで店が10年続いたらすごいです。そんな店をしている方は尊敬しますね。常人には計り知れない努力や覚悟があると思います。僕はまだまだです。
▲きつねうどん。出汁の香りがふわりと漂う。器も独自に発注(作陶:阿南維也
デザイン:町谷一成)。
四季折々で風景が変わる耳納連山の山並みを眺めながら車を走らせ、不動庵に辿り着き、ドアを開ける。うどんが出てくるまで15分から20分。ゆったりと店内に流れるジャズを聴きながら、静かに会話を楽しむも良し、静かに麺が出てくるのを楽しむもまた良し。風味が楽しめるしっかり麺と、福岡を感じさせるやや甘辛出汁、そして吉永さんの心意気をいただける、美味しくて素敵なお店でした。ごちそうさまでした。次は肉うどんにしようかな。
【うどん不動庵】
https://www.facebook.com/fudouan/
福岡県うきは市浮羽町流川543-2
TEL:0943-73-7763
営業時間:11:00〜15:00
定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日がお休み)