インバウンド需要が拡大する福岡の受け入れ課題と通訳案内士としての本来の使命。

昨年、訪日外国人観光客数がついに2,000万人を突破、政府は2020年の目標値を一気に倍増させ、4,000万人を目指すと発表しました。九州各地、福岡県内においてもさまざまな自治体や企業の間で「インバウンド」という言葉が飛び交い、誘客のためには何が必要か、どうすればよいのかといったことについて頻繁に勉強会や講演会が開かれています。外国人観光客を受け入れる上での一番の課題は、言うまでもなく言葉が通じること。彼らの希望を細やかにキャッチし、円滑にコミュニケーションがとれること。
国家資格である「通訳案内士」としてのキャリアも長く、「インバウンド」に関する講演会の講師として今、方々に引っ張りだこの、福岡市内の合同会社みずトランスコーポレーション代表の水谷みずほさんにお話を伺いました。

※ガイド時の衣装として特注していた着物ドレスが届き、嬉しそうな水谷さん

水谷みずほ
合同会社みずトランスコーポレーション(福岡市南区) 代表取締役社長
福岡市出身。九州大学文学部地理学科卒業後、九州大学大学教授秘書を経て、96年、日本で初めて福岡市に進出したグランドハイアット福岡の社員として中途入社。社員の多くが外国人という中、大学時代アルバイトで得たお金で世界中を旅した語学力で乗り切り活躍。その後フリーの翻訳・通訳者として自動車メーカー等の技術通訳を請け負う等、経験を重ね、2001年、通訳案内士に合格。旅行業務取扱管理者などの資格も取得し、2015年1月に起業。今年で4年目を迎える。

−福岡といえば「アジアの玄関口」というキャッチフレーズがおなじみで、韓国や中国などから大型クルーズ船でというイメージが定着していますが、最近は、少人数での自由旅行として福岡や九州を目指す欧米人も目立つようになりました。水谷さんの会社でも多くの実績があるようですね。

はい、九州全体として2〜3割増で訪日外国人観光客が増えています。その多くはアジア人になりますが、私たちの会社は福岡県旅行手配サービス業の登録も受けておりますので、クルーズ客よりは少人数のグループ旅行として、大手旅行会社のルートにはない地域、私たちならではのスポットや体験プログラムをウリとした独自のツアーも提案しています。これには自治体との連携が欠かせませんし、その土地ならではの歴史や文化をしっかりと学び、ただ一方的に送り込むのではなく、受け入れ先が伝えたいことと、ツアー参加者とのニーズをマッチングさせながら、通訳の仕方、言葉の選び方にも注意して当日のガイド業務に集中します。こうしたツアー客の満足度が口コミで広がる形で、独自のネットワークができ、いわゆる「インバウンド」が成り立っています。

※インバウンドをテーマとする講習会にたびたび講師として招かれる水谷さん

−福岡県内でいうと、天神や博多で買い物や食事、観光では、太宰府天満宮や柳川といったコースが定番ですね。そんな中で、いま水谷さんが注目しているのが「うきは」ですか?

そうなんです!豪雨災害でまだまだ大変な地域もありますが、朝倉やうきはは、果樹栽培も盛んですし、農業体験もできます。美しい耳納連山の眺めとともに、白壁土蔵づくりの風情ある町並みが楽しめる吉井町も注目です。実はいまその吉井町に「みずトランスコーポレーション」のサテライトオフィスとしてインバウンド事業の拠点となるような施設を立ち上げようとしています。
築100年を超える長屋で、大変珍しい3階建の木造建築なんです。

※長屋の右端3階建が準備中のサテライトオフィス・うきは市吉井町


※副社長の花野さん(写真右)と談笑する水谷さん

−素晴らしいですね!日本人の私でもワクワクしますから、外国のお客様は相当喜ばれるでしょうね。

そうですね。私たちの会社は、「通訳案内士」の初任者研修団体として、観光庁からの登録を受けています。
合格率20%にも満たない大変難しい国家試験を突破し、晴れて「通訳案内士」の免状を手にしても、実際多くの現場経験を必要とする大変な仕事ですので、ここ「うきは」でモデルツアーを組んだりして現場実習を重ねてもらおうといろいろなプログラムを企画中です。将来的には1階の土間部分は、ちょっとしたお茶の時間が楽しめるお茶処や、セレクトショップ、ギャラリーみたいな使い方もできればと思います。

※耳納連山が一望できる3階からの眺め

−それは楽しみです。このあたりは町並みの統一感があり、あちこちにカフェやギャラリーも点在していて散策するだけでもいろいろな発見がありそうです。水谷さんの通訳案内はとにかく単なる言葉の問題を解決するだけでなく、その土地の文化や人、生活習慣などのマナーも丁寧に解説されますよね。あれは、参加者と受け入れ側の絆をより強くするものだと感じます。講演会では現場体験を主に話されるとか。

そうですね。それがいま、一番求められていますね。日本では当たり前の習慣であっても外国の方から見れば、きちんと説明してもらわないとわからないこと、何がダメで何がよいのか。アジアからの観光客とは特にマナー面で不信感が生まれ、受け入れたくないという意見も聞かれますが、要はきちんと日本のやり方を説明できていないからではないかと。
トイレやお風呂の使い方、扉の開け閉めひとつとっても、トラブルの原因になったりもします。
農家民泊のルールづくりをはじめ、受け入れ側へのアドバイスや、こう聞かれたらこう答えるといった想定問答集を一緒に作成したりもします。

−受け入れ先としては「インバウンド」と一口にいってもクリアすべき壁が多すぎて何から手をつけてよいのかということになりますが、水谷さんのような会社と連携できれば、怖いものなしという感じがします。
ツアーも組め、集客もでき、通訳とガイド、さらに人材育成まで。まさにインバウンド時代をリードするオールマイティーな会社ですね。


いえいえ、まだまだと思います(笑)。ただ、福岡はどうしてもクルーズ船からの中国、韓国の団体客とどう向き合うかという大きな課題もあります。私はフリーの通訳者として20年近く、英語を武器にやってきましたが、英語がまったく通じない中で大変な思いをしたこともあります。
まずクルーズ船による主にアジアからの団体客と、いわゆるFIT(Free Independent Tour)と呼ばれる欧米を中心とした英語圏からの少人数のグループ旅行への対応は完全に分けて考える必要があると思います。私たち「通訳案内士」という国家資格を持ち専門の勉強を積んだ立場からいえば、もっとそのスキルを有効に正当に活用できる場が欲しいというのが正直な気持ちですね。
特にクルーズ船からの団体客をバスで福岡市内にお連れする場合、日本独自の文化やマナー、歴史などを丁寧に伝えるガイドというよりは、いかに買い物につなげるかの話術が問われているのが現状のようです。

−「爆買い」という言葉も流行りましたが、ただ買い物だけのツアーというのはあまりにも残念ですね。もっと事細かに、福岡県ひとつとってもエリア毎に多彩な魅力があるように思いますね。

おっしゃる通りです。どうしても各自治体は市町村単位でくくりがちですが、近隣の市町村と広域でどうつながるかが大切だと思います。外国人に対してはもっとシンプルにかつ柔軟に、両者を結びつけられる仕組みなり、わかりやすいテーマを打ち出すなど工夫が必要で、そのために役に立つプロフェッショナルでありたいと思っています。

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