魅力的なお店、また行きたくなるお店って何だろう?
それは提供される商品(サービス)の質?もちろんそれもあると思います。でも“誰が手掛け、どんな想いやコンセプトでやっているのか。その人に会いたいから行く、その人が手掛けたお店だから行く”これが一番の動機になるのではないかと思うのです。
本コーナーでは単なるお店の紹介ではなく、“人”にフォーカスしてお店を紹介していきます。
変わる時代
オシャレなカフェや雑貨屋が立ち並ぶ福岡市中央区白金。この地には70年以上続く街の魚屋さん『森鮮魚店』があります。
若者の魚離れが進む現在において、同じ若者という視点で、新たな店づくりに取り組む3代目の森さんにお話を伺ってきました。
−白金で、魚屋さん。元々この土地でお店を?
森さん:「かなりさかのぼるのですが、福岡大空襲後でまだまだ町も復興の最中、初代の祖父が台車をひいて魚を売っていたんです。当時はまだまだ今の白金からは想像もできないような荒地の状態だったと聞いていますが、その後祖父の努力によってある程度の貯えができ、縁のあったこの白金で念願だった店舗を構えるまでに至りました」
−なるほど。今とは全く風景の異なる白金の街を長年見守ってきているんですね。3代もお店を構えていて変化を感じることはありますか?
森さん:「一番の変化はやはり魚離れが進んでいることですね。というよりは魚屋離れが進んでいること。現在のお客様の層は40代~60代の女性が中心です。次いでお子さんのいらっしゃる30代の主婦の方々、お一人暮らしの男性も結構多いんですよ。しかし20代のお客様となると数はぐっと減りますね。今と昔の魚に対する価値観が変わってきてるのかなって思います。回転寿司は今や大ブームですし、魚料理中心の飲食店でも連日賑わっている所もよく見かけます。スーパーでも加工してある状態での販売がほとんどですよね。良くも悪くも昔よりも魚がより身近に、しかも安くおいしく食べられるという流れが定着したことで、家庭での料理が面倒なものになってしまい、外で食べたり調理・加工済みのものを買うという方の割合が増えた結果、魚屋離れが加速しちゃったのかなと。それに敷居が高いイメージもあるのかもしれません。ある日初めて来店されたお客様に、「魚屋=魚がそのままの姿で売られているものだと思ってました」と言われたこともありましたね。知識がなくて大丈夫かなとソワソワしながら来店されたようで、その時はなるほど!と思いましたね。そうした先入観を持っている方も意外に多いのかもしれないと気付かされました」
異分野からの挑戦
−確かにいまではスーパーで手間を掛けずに手に入りますね。すでに調理されたものも多いですし。そんな森さん自身も世代的には一緒だと思いますが、なぜ魚屋で働こうと思われたのですか?
森さん:「20代の頃はフォトグラファーをしていたり音楽制作、DJなんかもしていたんです。でも写真や音楽って収入に関して言うとすごくばらつきもありますし、長男っていう立場もあったりして、改めて自分と向き合ってちゃんと考えなきゃってなって。30歳越えて、考え方も多少柔軟になってきて魚屋に対して悲観的だった考えが一転してすごく前向きになれたんですよね。そうするとワクワクするようなイメージが次々と膨んできて。これまでの経験を魚屋に取り入れちゃえばどこにもない魚屋が作れるんじゃないかって思ったのがきっかけですね。散々迷惑もかけちゃいましたしね。
先ほども言ったように魚や飲食とは真逆のことをやっていたので、20代のころは魚屋になる=培ってきたものが全て無駄になる、という浅はかな考えを持っちゃってて。なので「絶体に継いでやるもんか」くらいに思ってたんですけどね(笑)。
跡取りとしての仕事が始まってからは、商店の大変さや魚の奥深さを目の当たりにして、これは一人前になるまでには長い道のりになるなと感じましたね。目利きや、包丁の入れ方、管理方法、本当に繊細な世界で。そしてなにより作り手がお客様においしく食べてもらうために日々魚に敬意を持って接すること、これが最も大事なことなんだと先代の背中から教わりました」
−魚とは全く関係ない経歴ですね(笑)。具体的に20代の経験が魚屋さんに活かされたことはありますか?
森さん:「跡取りになってまず最初に取り入れたのがBGMですね。魚屋にBGMなんていらないでしょと思われる方も多いと思うのですが、僕からすると音楽ひとつでお客さんがリピーターになる、ならないが決まる程重要なものだと思っていて。無意識な中にも案外脳にはしっかりイメージが残っているもので、その無意識の中の意識をどれだけ刺激できるか、に重点を置いています。お昼はゆったりとした音楽を流してお客さんにゆっくり魚を選ん頂き、逆に夕方の忙しい時間はリズム感のある軽快な音楽を選んで活気のある雰囲気を出してみたり。雨の日はしっとりした感じにといったように、その時その時に合わせた選曲をしています。
あとはお店に出してるポップやショップカードなんかも自分で作っています、これも過去に自分の音楽イベントを宣伝するためのフライヤーを作るために独学でソフトウェアの勉強をしました。いろんな広告物を作成するにあたって写真も同時に活かせるのでほんとやっていて良かったなって思います。とてもプロといえるレベルではありませんが、目を引く広告、ポップ作りは常に心がけていますね。最近でいうとロゴもちゃんとしたもの無かったので良い機会だと思い、作成しました。自分の店のロゴが何かに掲載されたりするとなんかうれしいですよね。
あ、これまでの経歴を過去形にみたいに喋ってますが、実は今もフォトグラファーや音楽活動も地味に続けてるんです。平日にDJをする時なんか、イベント終わってそのまま仕入れに。みたいな日もしばしばあって。そんな日はヒイヒイ言いながら店に立ってることもあります。笑」
変えていくもの変わらないもの
−今までとは変わった取り組みをしているんですね。逆に、これからもずっと変わらないもの、守り続けたいものは?
森さん:「ネットを通じてのコミュニティばかりが拡大していく時代の中で、この地域密着型でかつ対面販売のお店って今すごく重要な意味と可能性を持ってると思っています。そして安心安全なお魚の提供と味をしっかり継承していくこと。これがこの店の命なのでこのスタイルで今後もずっとやっていきたいですね。
父親自身、自分の代で店を畳もうと思っていたみたいで、そんな中僕がいきなり継いだもんだから常連さんもびっくりされていて。森鮮魚店の存続を気にかけてくださっていたお客様の中には涙ぐんで喜んでくれる方もいました。ここを必要としてくれている方が居続けてくれている限り、変わらずこの場所に森鮮魚店が在り続けなきゃって思いました。でも、70年もやってるので店舗はもうボロボロでそこらじゅう傷んじゃってて、、、(笑)、近い将来リニューアルも考えていかなきゃいけないとこまで来てますね。。」
−長年地域に愛されているお店なんですね。今後、やっていきたいことはありますか?
森さん:「ただ買い物に行くというよりは皆様にとってのライフスタイル的存在として活用してもらえたら良いなと思ってて、ワークショップや料理教室、地域イベントの計画、造りたてのお刺身とお酒をその場で堪能できる角打ちスペースを設けたり、グッズ展開、、、、いろいろやりたすぎですね(笑)。とったように普段魚料理をしない方でもお店に来るだけで楽しめる・学べる・交流ができる場所へと進化させていくことが今の目標です。老若男女、各世代それぞれが求めているこんな魚屋さんがあったらいいな、に応えていければと思っています。。」
どの世代にも魅力的なお店になるように、今後も様々な取り組みを行っていきたいと語る森さん。
今まで見たことのない個性あふれる魚屋さんが生まれるかもしれませんね。楽しみです。
【森鮮魚店】
福岡県福岡市白金2-5-4
TEL:092-531-6517
営業時間:10:00〜20:00
定休日:日曜・祝日