筑後平野のほぼ中央にある大木町。日本屈指のクリーク地帯に挙げられているこの町は、面積の約14%を占める掘割が、町内の至るところに張り巡らされています。水の豊かなこの町で、今では珍しい「天然染め」に取り組む工房があります。『宝島染工』です。代表の大籠千春さんが人材を募集していると耳にし、お話をうかがいに大木町を訪れました。
作品ではなく、商品としての天然染めを
福岡県大木町で生まれ育った大籠さん、10代の頃、グラフィックに興味を持ち、その後、短大で染色の面白さに出会い、卒業後は、朝倉市秋月で本藍を扱う天然染めの工房に就職されたとのことです。
−若い頃に工房を立ち上げておられますね。経緯を教えていただいてもいいですか?
「短大を卒業という頃になって、さてどこに就職しようかとなりますよね。染めの仕事というと、京都が代表的な産地で、京都の衣料関係というと和服なんですね。そこは、いわゆるピラミッド的な仕事のやり方なんです。中ではきっちりとした縦割りがされていて。例えば反物の検品をずっと何年もされている方もおられるような、そういう世界です。それで、自分の気持ちを振り返った時、私自身の『作りたい』という気持ちとは違うかなと思ったんですね。価格帯をとっても、和服そのものがハイエンドに近すぎるというか。現実的に色々な人に手にとってもらえる価格帯ではないので、もっと普段使い出来るようなものを作っているところへ行きたいと思って、探しました。そうしたら、九州にもいくつかあって、その中でオリジナルの服の製造・販売をする朝倉・秋月の会社にご縁があって就職して、そこで約4年、草木や藍を使った染めに携わりました。それから福岡市内で型染めの工房へ移って、ここでは約5年です。この工房では、山笠の法被や店舗ののれん、珍しいところでは博多座の幕なども扱っていました。ちなみに、大量注文が入る事などもあり、この工房では化学染料も。この頃に、デザイン関係や建築、自治体関連の方々とも仕事するようになったんですね。私がこうしたところで染めに携わっていた20代の頃が、丁度バブル崩壊の後たったんです。九州に点々と在った染めの工房でも、いくつかの工房が閉じたり、立ち行かなくなっていた時期でした。そんな中で、近くにある工房が、後継者不在をきっかけに閉じるという話を聴きまして。それがきっかけかな。このままだと生産者や作り手がやせていくし、減っていくだけだと思って、じゃあ自分がやろうと思ったんですね」
−ここまでが2001年の工房立上前夜まで、ですね。手作業のみで天然染料を使ったOEM生産*という形はこの頃からですか?
*OEM生産・・・委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカのこと。
「はい。でも、はじめた頃は、何をやっているのかわからないくらい色々とっ散らかってしまって、わけがわからない状態でした。1人で始めたし、本当にわけがわからなかった。それでも、独立前からお世話になっていたアパレルオーナーの方に相談にのっていただいたりしながら、やりたい事・やらなければいけない事っていうのは自分なりに考えていたんです。国内でこういう仕事を残していきたい。専門性がある人が、それらの仕事が出来るようにしていきたい。それには、作品じゃなくて商品という形で流通させていかなければいけないし、色々な人が手にとれる価格帯にしていきたい。はじめたころは本当にいっぱいいっぱいだったんですが、ここ最近はようやく仕事のなりたちがクリアになってきたし、整理出来てきたように思います。今は約30社とお取引させていただいていて、そのうちの8割位がアパレル関係です。珍しいところでは、木工や皮へ染めの注文をいただいたりする事もありますよ」
作り手としての「肝」
−作り手として、ここは大切だと思っている事、ありますか?
「私は、“天然染めだからエコ”で押すのはすごくグレーな事だと思っています。まず目で訴えかけて綺麗と感じてもらって、そこから“天然染めだったのね、この値段だったら買えるわね、買おう!”というのが普通に手にとってくれる方たちの普通の流れだと思うんです。そこが、順番が逆になってしまって頭でっかちになってしまうのは、ちょっと違うかなと思っています」
「その上で、どこまでやるのかというのは作り手側に委ねられていて、作ることと捨てることはイコールだから、どこを基準にするか、なのかなと。確かに、染める段階で強い化学薬品を使えば、排水処理にも強い溶剤を使わなくちゃいけないし、水ももっともっと必要になるし、費用も環境への負荷もかかります。でも、天然染めでも排水が出る事は一緒なんですよね。だからグレーなんです。うちの工房で使う水の量については、一旦調べて、高低差を付けて区画を分けた貯水升を設置しました。高低差を利用して、自然と上澄みだけが次の枡へ流れていって、沈殿した色素がたまったら、業者さんを呼んでくみ上げてもらう方式です。これらを理解した上で、お声がけいただけるのは、ありがたいですね」
「それと、日本の衣料産業全体に言えることですが、やせていっています。携わる人も減ってきています。30~40代がガクンと減っていて、6~70代の方々の技術は今は20代に引き継がれようとしている時代です。やっぱりすそ野を広げなくては厳しいです。産業として成立させるためにも、普通の皆さんの手に届くように作品ではなく商品を出して行こうと思っています。ここ数年、オリジナルを作品としてでなく商品として出しているのは、『良い商品』をわかりやすい形で提案していきたいなと感じているからです。染めというのは商品の構成要素の中では1~2割ですし、天然染めは作り手によって出せる色が違います。そういう事も、オリジナル商品を通じて知ってほしいと思っています」
−では最後に、今回の求人でどんな方に出会いたいと思っていらっしゃいますか?
「今回はベテランの方が今後辞める事に伴う欠員補充なのですが、数年前に比べると、業務のバリエーションが格段に増えています。染色作業だけに関わらず、染め上がり後の検品、出荷業務、不定期ですがイベント開催など色々な仕事があります。宝島染工の仕事を面白いと思ってくれる方、ポジティブで、私たちと楽しいポイントとか嬉しいポイントが重なっている方と出会えたらと思っています」
「面白い」をきっかけに天然染めの世界に入った大籠千春さんと、工房スタッフの方々です。佇まいは自然体ながら、染めの世界に魅せられたメンバーを率いながら、広く、そして深く、産業の先のことまで見据えている大籠さん。静かだけど、きっと沢山の刺激が待ち受けている宝島染工へのご応募、お待ちしています。
宝島染工 |
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募集期間 | 募集終了 |
募集職種 | 製造 |
採用人数 | 1名〜 |
雇用形態 | 正社員 |
勤務地 | 福岡県三潴郡大木町横溝2068-1 |
勤務時間 | 8:30〜17:00(実働7.5時間) |
給与 | 15万円〜25万円 昇給/年1回 賞与/年2回 |
福利厚生 | 雇用保険、労災保険 交通費(月2万円限度) 住宅手当 作業着手当年2回 |
休日休暇 | 週休2日制 夏季休暇、年末年始休暇、慶弔休暇 |
仕事内容 | ◎生産管理 縫製工場とのやりとり、納期管理 ◎展示会場での商品説明や提案(東京、海外での展示会もあります)搬入、設営も行います。 ◎商品開発の企画 生地開発、染め柄企画 ◎OEM業務 生産染め作業も兼任※生産全般といった内容の業務ですが、天然染料然り藍染、泥染をニーズにあったマーケットを模索するのも全般知った上でお伝え出来る事が大きいので上記の様な書き方となっております。 『皆で知り、皆で考え、物に落とし込む』を重んじております。 |
応募資格 | 特になし ※アパレル生産経験者、染工場経験者は前職を活かせる職場です。 |
選考プロセス | STEP-1.本サイトへお申込みSTEP-2.書類選考STEP-3.面接 |
備考 | 【求める人物像】・服や染は勿論創る事が好きな方 ・真面目で誠実な方 ・細かく丁寧な対応ができる方 ・明るく話すことができる方 ・チームワークを大切に出来る方 ・情熱・向上心を持って仕事に取組める方 ◎PCスキル(Ward、Excelなど)がある方 ◎日常英会話が出来る方 |