PCメーカーのレノボ・ジャパン(株)に勤務する村上武士さんは福岡出身。IBMに就職してからPC部門がレノボとなり、15年間は営業、最近の5年間は管理部門と、20年間PCビジネスに関わってきました。
レノボといえばPC好きな人は『ThinkPad』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。こうしたノートPCの登場によって、デスク以外でPCを使う選択肢が広がり始めました。中でも『ThinkPad』はエベレスト山頂や宇宙ステーションで初めて使われたノートPCでもあり、ワークスペースの可能性を広げてきた先駆者的なイメージがあります。
そんな『ThinkPad』を作るレノボのワークスタイルについて村上さんに伺うと、意外にも“オフィスで働くのが良し”とされる文化だったそう。現在レノボ社内でワークスタイル変革を推進しているという村上さんに、オフィスを離れて働く環境を作ることで企業が得られるメリットについてお話を伺いました。
−今回、村上さんはリモートワークをするために『SALT』(福岡移住計画が運営するシェアオフィス)にいらしたのですよね。その経緯を教えていただけますか?
はい。きっかけは2015年春に社長が“日本のIT活用推進をもっと推進しよう”と社内に発信したことです。企業も個人もIT活用がまだまだ十分できていないんじゃないかと言うんですね。でも、レノボ自身もまだできていないんです。だから社長に“中も変えていきましょうよ!”と言ったところ、ワークスタイル変革プロジェクトを担当させてもらえることになりました。
そのプロジェクトの目的は、ワークライフバランスを改善し、企業として競争力を高めることです。そしてオフィス勤務をベースとしたテレワークをそのための手段として位置付けました。実はテレワークの社内普及は過去にも試みがあって、定着しなかったんです。ハード面でのインフラは整っているけど“出社したら勤勉”のような文化があったりして。今回はそれについて手放しでいるとまた浸透しないかもしれないので、新しくきっかけ作りを進めています。その1つが今回の“秋のテレワーク祭り2016”キャンペーンなんです。
−なんだか楽しそうなキャンペーンですね。どんなお祭りなんですか?
“秋のテレワーク祭り”は、国が推進している“テレワーク月間”と同期したいしたいということで立ち上げました。全社ミーティングで発表する時に、普通に固い名前でやってもハートに響かないので、馴染みやすい名前にしたんです。祭り企画その1は、もっとテレワークをやりましょう!という内容です。もしテレワークをやってないのであれば、なぜやっていないのかを教えてほしいと伝えました。テレワークを推進してきて、社内調査では生産性が上がった社員は5割、変わらなかったのが45%という結果がありました。これは上司からも見た評価結果です。9割以上がポジティブな結果だったと受け取っていているのです。しかし、あらためて聞いた所、実際に取得しているのは30%。継続した活動が必要だと痛感しています。
それから祭り企画2つ目は、コワーキングスペースで仕事をして共創を推進すること。普通に組織のチーム内だけで仕事をしていると、ビジネスは今が100だとするとプラスマイナス5とかの小さな幅でしか増減しません。でも多様なコミュニケーションによって、その幅がプラスマイナス200になる可能性があります。外部の人と付き合うことで、マイナス200からプラス200までの幅で玉石混合のビジネスアイデアをたくさん生み出そうということを狙っています。そこから200に近いものを探す旅に出ようということなんです。そのために、コワーキングスペースの利用費を補助することにしました。代わりに共創のアイデアビジネスコンテストに応募してもらいます。今回私が『SALT』でテレワークさせてもらったのは、この取り組みの一環です。交通費は自己負担なのですが、“ふるさとテレワーク”というスタイルを伝えたいという思いもあって。
あとはテレワークグランプリというのもやっています。Facebookにテレワークの様子を投稿したりシェアをしようという取り組みです。この企画では社外向けにレノボのテレワークの活用状況を知って頂きたいと考えています。実際にこれが1つのきっかけになって“レノボっていいな”と転職してくれた人もいるんですよ。変化しないのは楽ですけど、やっぱり企業の持続的な成長のためには、より魅力的に変化していかないといけないんですね。そして社内向けには“テレワークして当たり前なんだ”という文化づくりを狙っています。社長や取締役もテレワークを実践していて、その様子を投稿しているんですよ。
こうしてレノボでは“攻めのテレワーク”をしようとしています。子育てや介護では当たり前。そしてワークライフバランスのための使い方を超えて、早めに仕事を切り上げて勉強会に参加したり、通勤時間を無くして勉強に使ったり。社員みんなに使ってもらいたいんです。さらには新しい価値づくりや、共創やイノベーションを狙っていくためのテレワークとして推進しています。
−共創のためのヒントとしてどんなことを社内で伝えているのですか?
社員に伝えているのは、コワーキングスペースに行くときに“何をしたくて行くのか”だとか“どんな人を紹介してもらいたいのか”を明確にして行くといいよということです。ただその場にいるだけではなくて、ブレイブハートを持って外の人に話しかけてみましょうと。
自分の中に課題を持っていろんな人に会うと、いいアイデアやつながりが生まれると思うんです。たとえば私は学校教育のIT環境について課題を感じていたのですが、『SALT』に来るとさっそく教育関係でのつながりもできたんです。これからも多様な価値を持った方とつながって、いろんな問題を解決していきたいと考えています。たとえば自社の中だけだと“他社が価格競争を激化したらどうするか”とかいう議論に偏ることもあるので、やっぱり外に出て新しい人たちとつながることで“え!?それをパソコンメーカーがやっちゃうの!”というイノベーションを創り出したいですね。