【西塔大海さん】
2011年4月、東日本大震災からの復興と雇用創出を目的に、(一社)気仙沼復興協会を設立し、事務局長に就任。同法人は350名以上の雇用を創出。2013年、福岡県上毛町(こうげまち)に移住。田舎暮らし研究サロン「みらいのシカケ(通称:ミラノシカ)」にて、移住促進、空き家リノベーション、都市農村間交流、地域おこし協力隊活用などに取り組む。共著に『ソーシャルパワーの時代ー「つながりのチカラ」が革新する企業と地域の価値共創戦略』(玉村雅敏/編著、産学社)
香春町が引き寄せるもの
香春町と取り組んでいる移住促進のお仕事について教えて頂けますか?
西塔さん:「昨年、香春町の地域おこし協力隊を募集する仕事をさせてもらいました。そこで今年度は、移住交流拠点をつくる事業を受けさせて頂いています。採銅所駅舎を改修した地域おこし拠点とトライアルウィーク滞在拠点ですね」
—香春町との取り組みがスタートした最初のきっかけは何だったんですか?
西塔さん:「上毛町で私が働いている『ミラノシカ』に、香春町役場の坪根さんがいらっしゃったんです。それで“自分の町でもこんなことをやりたい”という話になって、そこから始まりました。そういう行政職員の方って結構多いんですけど、実際に“一緒にやりましょうよ”って予算をつけてこられる方はなかなかいらっしゃいません。視察で終わることがほとんどで、良くても講演に呼ばれて終わりとか。でも坪根さんとはすごく気が合ったんです」
西塔さん:「地域の移住定住に関しての魅力発信って、何をどうするかとかは表面的にマネすることもできるし、外部の力で乗り越えることもできると思います。でも、なぜやるのかというWHYの部分にアツい想いと覚悟を持っている人が中にいるかどうかが大事なんです。人がいなかったら、絶対まわらないんですよ。
坪根さんという存在がなかったら、僕はもしかしたら関わっていないかもしれません。そういう人が移住者の窓口となる担当職員としているのは、とても大きいことだと思います」
—香春町に行ってみて、実際にどんな魅力があると思いましたか?
西塔さん:「香春町は古代からの歴史も残っていて、ネタがいっぱいあるんですよ。そして適度な余白間も魅力的だと思いました。地域おこしとか町おこしをそんなにやらずに済んできたので、地域おこし協力隊とかも全然入れていなかった地域なんです。だからこそ誰か先行者が散らかして失敗したとかもないので、これから一緒に始められるというのもすごく魅力だと思います」
西塔さん:「都市圏が近いことも魅力的です。北九州まで30〜40分で行けるというのはすごく現実的ですよ。ほどよい距離感だなと思います。空港も近いですし」
—トライアルステイでお試し移住するということは、どんな人にオススメですか?
西塔さん:「人間って同じ場所にいると、同じことしか考えられないんじゃないかと思うんです。だからきっと旅をするんですね。トライアルステイというのは移住先を探すためだけのものだというよりは、もう少し内向きの志向でもいいんじゃないのかなと思います。何かすごくモヤモヤしていたり、自分の働き方に疑問があるような時に、環境をちょっと変えてみましょうよと。
そんな時に誰もいないところに行って瞑想するのもいいけれど、ちゃんと人がいる場に行って滞在するということが、自分や暮らしを見つめ直すいい機会になるんじゃないかなと思います。それがトライアルステイをオススメする理由ですね。
受け入れる側には“いかに取り込んでやろうか”みたいな思惑があるんですど、行く側はそんなこと考える必要はないんじゃないかなと思います。
トライアルステイにくる人には大きく2タイプあって、1つはモヤモヤ型、もう1つは刺激追求型です。クリエイティブなことをしている人たちって、環境に自分のつくるものが左右されるというのを知っているので、環境を変えたいんですね。その時に気をつけたいのが、都会みたいにお金を払って刺激を買える場所ではないということ。刺激の対価というのは、挨拶だったり、おいしそうに食べることだったりします。そういう心構えさえできていれば、都会でいくらお金を払っても得ることのできない刺激を得られる人もいるし、その先に仕事を得る人もたくさんいます」
1期目の今回は断然オススメ
—香春町のトライアルステイ「香春町ぐらしトライアルウィーク」ではどんなところがオススメですか?
西塔さん:「1期目が1番面白いと思うので、香春町はその意味でもオススメです。町としても初めてだから、きっと一生懸命おもてなしすると思います。参加者もどちらかというとイノベーターっぽいタイプがいらっしゃるんじゃないかな。何も無いところで何かやりたいような人たち。滞在期間は別々だけど、参加者の横のつながりもつくれれば面白いと思います。まだトライアルステイをやったことがない香春町に1期生で参加できるのはいいチャンスです。
そして滞在物件も面白いと思います。古民家をリノベーションするのですが、設計士の町谷一成さんは福岡でもなかなかいない古民家リノベを手がけている方です。上毛町で今2軒、古民家活用で物件を見ていただいているんですけど、それがとても良かったので、今回香春町の滞在物件リノベもお願いしました。町谷さんには講師をしてもらって、DIYリノベーションに興味がある人を集めて講座スタイルで改修するんです」
—香春町に移住するとなると、たとえばどんな働き方ができますか?
西塔さん:「香春町では半農半Xのスタイルをオススメしています。でも半農半Xって、半分半分で何かをしないといけないという意味ではないと思います。たとえば月3万円の小商いを10個やってみようとか。10万円で3つというのは結構現実的です。そしてプラスで農業というか家庭菜園。
でもその人とか家族構成とかライフスタイルや持っているスキルによって、そのバランスって全然変わってくると思うんです。そこから試行錯誤してみるといいと思います。農業と何かをかけあわせなきゃいけないって考えるんじゃなくて、農業はプラスαだと思ってもいいし、逆に農業を本業にして農業で食べていくというのでもいいと思います」
西塔さん:「外国人向けのツアーガイドのような小商いもすごくオススメですね。地域おこし協力隊の2人がメキシコにいたりアメリカにいたりして、英語やスペイン語ができるので、そういう人たちと上手く組んで外国人を誘致する高単価のツアーをつくるとか。
カフェとか雑貨屋とかだけじゃなくて、資本や時間を投資しすぎずに挑戦できるこうした小商いの選択肢がもっと増えたらいいなと思っているんです。10日間くらいトライアルステイしたら、きっとそこそこツアーガイドできるじゃないですか。農業しながら、自分のやっている農業や近所の人たちをめぐる半農半Xっていうのはすごく面白いと思います」
—最後に、「香春町ぐらしトライアルウィーク」に応募を考えている方にメッセージを頂けますか?
西塔さん:「この春、自分もトライアルステイをしてみたんですよ。山梨に2週間半滞在しました。実際に自分がやってみる立場になると、実は結構大変でした(笑)妻と子供も連れて行ったので荷物は多いし、やることも多いし。香春町では7日か10日なので、MAXの10日間いることをオススメします。
1週間だと、荷ほどきして足りないものを買い出ししたり、生活環境を整えていたら3~4日経ち、いろんな人に誘われて出かけて、という間にあと2日くらいしかない。というように結構バタバタしてしまうかもしれません。せっかくならできるだけ長くいた方がいいというのが体験談です。地域の人と関係性をつくって何か一緒にプロジェクトや仕事をしてみようと思えば、2週間から1ヶ月くらいはどうしても必要になるのかなと思います。今回は最大10日なので、また次に来るための足がかりをゲットしておくといいですね。お願いしたら泊まれる家とか」
西塔さん:「仕事を持ち込もうと思っている人は、通常やるボリュームの1/3くらいだけやる想定がいいと思います。余裕をもたせておいて。例えばクラウドソーシングで在宅ワークをするなら、早朝にやって夜は空けておくとか。
あと写真は何でもいいから撮ってSNSとかにアップしてほしいなと思います。ちょっと行ったくらいで投稿しても何にもならないだろうと思って躊躇される方もいるんですけど、逆なんです。町の人には見えていない景色というのがすごく多いんですね。こういうものを写真に撮るんだっていうだけでも、地元の人にはすごく大きな気づきになります」