【ママとこどもの良い暮らし】一度きりの人生をどう生きるか。一緒に夢を紡いだ夫婦のかたち。鳥飼のこども服と雑貨のセレクトショップ(ミクロアパートメント)

「ママとこどもの良い暮らし」は、“「子連れでお出かけ」をもっと楽しく!”するために活動する『ママリボン』と福岡移住計画の共同企画です。子連れママ&パパたちも福岡の街に自然に溶け込んで、みんなで多様性をもっと楽しんでいくためには?子連れでも過ごしやすいお店などを紹介しながら、暮らしやすい街の姿を連載で探っていきます。

全国のおしゃれに敏感なママやパパから絶大な支持を得る、こども服と雑貨のウェブストア『ミクロアパートメント』。その実店舗が、福岡市中心部から少し離れた静かな住宅街・鳥飼にあります。店内には選りすぐりの可愛い国内外のこども服や雑貨、おもちゃが並び、今日も小さなお子様連れのママやパパでにぎわいます。今回は、お店ができるまでを中心に、ご家族のことやお店のこれからをオーナーの多田潮人さん、奥様の真由美さんご夫妻にじっくり伺ってきました。

−いつもなかなか出会えないような、かわいい雑貨やこども服が沢山あり、あれもこれもと目移りしてしまいます。セレクトは奥様が中心にされているということですが、どのようなコンセプトで選んでいるんですか?

真由美さん:「お店のコンセプトは、“とっておきと出会える小さな箱”。セレクトするうえで大事にしているのは、第一に『わたしたちが好きなもの』ってことですね。わたしたちが我が子に着せたいもの。だれかに送りたいもの。遊んでもらいたいもの。その素材や肌さわりをはじめ、ひとつひとつに理由があってこだわりが詰まっているもの。どんなに目新しいものでもまず、“好き”って心が動かないものはおかないようにしてます」


※店舗の一角にはかわいいキッズスペースが。お買い物のあいだこどもたちはここで遊び、ゆっくりお買い物を楽しむことができる。

3.11から変わった、家族の価値観

−10年前、潮人さんが大阪から福岡の会社に移るのをきっかけに、2人のお子様を連れ移住し、真由美さんも次女の入園を機に大阪時代に勤めていたコーヒーチェーンに復帰。仕事も生活も慣れてきた頃に東日本大震災が起こったということですね。

真由美さん:「私たちは福岡で、直接的な被害はなかったんだけど、同じ日本人として、とてもつらい気持ちになる、本当に大きな出来事で。自分の家族に置き換えて考えたときに、人生なにが起こるか本当にわからない、今、自分自身がやりたいことは本当にできてるかなって。それをじっくり考えて一日一日を大切にいきなきゃって思ったんです。あの時期は夫婦で“やりたいこととかない?”ってよく話したよね」

潮人さん:「当時36歳で、いつか自分のやりたいことを仕事にしたい、なんて空想とかしてたけど、何か行動するわけでもなかったんよね。ただ震災のあと、出張で長崎の高速を通ってたとき、ふと“俺このままだと後悔する、やってみたいことをやろう”とはじめて強く思った」

真由美さん:「すごく単純なんだけど、自分にこどもができてこども服の世界を知って、本当にかわいくて大好きになってて。何のキャリアもツテもないけど、それを仕事にしたいって思ったのがきっかけで、2人で話して、ウェブストアをやってみようって」

−『好きなことを仕事にして生きていきたい』多くの方が思っていると思います。Webの知識やアパレルの経験が全くないところから始めるって、かなりの意気込みがあったんですね。

潮人さん:「今思うとすんごい短いスパンだけど、3月に決めて、5月あたまにはもうページができていた。1か月ちょっとで。それだけ強い気持ちだった。でもそれまでサイトなんて作ったことないからさ、ゴールデンウィークに本屋で『はじめてのホームページ作り』って本を買ってきて、夜中にああでもない、こうでもないって作業して。やっと完成したはいいけど、それがまあ、ひどいページでね…笑」

真由美さん:「それにアパレル業界のこと、何も知らずに始めたからノウハウが全くないの。“このお洋服はどうやったらお店で売れるの?”って本当そんなレベルで。でも、その時はやってみたら何とかなる、って意気込みはあったんだよね。実際はこれはどうするの?どうしていったらいいの?の失敗の繰り返し。笑」

潮人さん:「当時は、平日に仕事から帰ってきてこどもが寝た後、夜ページを作る作業をいつもして。休日には、車に衣装いっぱい積んで、こどもたちを百道浜(注:福岡市にあるシーサイドの人気観光エリア)に連れていってさ、何回も着替えて、ポーズとってもらって。なんとかページを完成させていってね。そんなズタボロのホームページで数週間たったある日、深夜2時にパソコンから『ピンポーン』って聞きなれない音がしたんよ。何やろうって思ったら、初めて売れてた。夜中だけど起こしたもんね。『売れた!スカートが売れたよ!』って」

真由美さん:「カッコ悪くて見せられないページなんだけど、一緒にすごい喜んだよね。あの時の気持ちは忘れられないね」

ダブルワークする苦労とつかんだチャンス。

−当時は潮人さんは会社員、真由美さんもコーヒーチェーンで働き、家事育児、さらにウェブストア。両立することに苦労も多かったのではないですか?

真由美さん:「ダブルワークしていると“心ここにあらず”って時がたまにあって。ある日、店長から『このままでは自分自身にとって良くないよ。大切な家族もいるし、限りある時間のなかで仕事をしたいって言ってるなら優先順位をつけながら何かをあきらめないといけないこともあるよ。』って言われてドキッとして。働きやすくて大好きな職場ではあったけど、“これもしたいあれもしたい”じゃなく、自分の気持ちに向き合って、ミクロアパートメント一本に集中することにしました」

潮人さん:「僕の場合は日中はサラリーマンだったから、仕入れのシーズンに合わせて休みを少しとったりしながら働いて。最初はとにかくお取引先を開拓しなきゃなんだけど、どこにも相手にしてもらえなかった。お取引が決まっても、まず仕入れの単位のことをわかってなくて、『普通に買うだけやんそれ』って単位で仕入れてしまったり(笑)。お叱りを受けながら少しずつ勉強させてもらって2年目から、なんとか軌道にのってきたんだよね。家の8畳の一部屋が在庫でパンパンになっちゃって。新たに六本松にワンルームの事務所を構えたんよ」


※はじめた当初、ふたりで大阪に出向き、快くお取引していただくことになった、kukkiaさん。このガチャガチャは何年もお客様に愛されるロングセラー商品となった。

−そんなミクロアパートメントに、大きな転機が訪れます。それは、福岡天神のファッションビル「IMS(イムズ)」へのPOPUPストア出店要請でした。

潮人さん:「めちゃくちゃうれしかったな。その1年前くらいに、“サラリーマンを辞めて、ミクロ一本でやっていきたい”て気持ちを上司に伝えたことがあってね。すると『ミクロの仕事をしながらでもいいから1年間だけ手伝ってくれ』って言われて。そうして迎えた1年目の日にこの出店の話をいただいたって経緯があったから、二つ返事で『よろしくおねがいします』っていったけど、結局、会社を辞められず、それから6か月間、ダブルワーク。朝にスーツ着て会社に出勤して、お客様んとこいって、終わったら車で着替えてイムズ店頭に立って、夜に事務所に移動して配送業務…めまぐるしい毎日やったなあ」

真由美さん:「イムズの営業スタイルに合わせてアルバイトさんも雇って。でも、ウェブストアも忙しくなっていたから、もう大変だったね。笑 私も、身体に無理がたたって、とうとう入院してしまって」

潮人さん:「倒れてびっくりした、するとどうなるかというとさ、サラリーマンやろ、イムズやろ、ウェブやろ。それに家事育児が僕ひとりに重なって。もうめちゃくちゃやったな」

真由美さん:「わたしが退院してきたら今度はパパが病院かけこんだよね。だからどんなに楽しい仕事でも、体あってこそ。“これはできないこと、これは大事にしたいこと”ってきちんと整理していこうって学んだよね」



ウェブストアでは経験できなかったこと。

−これまでパソコンに向かって発送業務をしてきたお二人が、イムズの店頭に立つ。接客業務で印象的だった出来事などはありますか?

真由美さん:「ウェブストアにはない、ひとりひとりのお客様と“出会える”ってこと自体が嬉しくって。自分がセレクトしたものを実際に手に取ってくれるのを見て『このブランドはネットでは見てたけどはじめて実際に手にしました、うれしい!』ってお客様の反応がすごく多かった。可愛い赤ちゃんを連れたご夫婦が楽しく選んでいる様子は、すごくほほえましくて、店頭にいる時間、こんな幸せな瞬間がたくさんある仕事は他にないなあっていつも思ってた。あと驚いたのは、この人(潮人さん)の楽しそうな接客の様子ね。レジも触れなかったのに、今やラッピングもどんどんスキルあげていって、隠されていた才能が開花したんだ、と思ってる」

潮人さん:「わはは。でも本当、イムズの半年で、店舗ってこうやってものを売るんだ、ってことを勉強させてもらったなあ。最初のころ思い出すわ。ウェブでラッピング注文入ったら一個発送するのに半日くらいかかったもんね、ラッピング…」(今は数分できれいなのできる!そうです)

−そうしてイムズでの出店を終え、サラリーマンを退職した潮人さんが本格的に加わって法人化。
新たな土地で夫婦2人でウェブストアと実店舗の両方を運営する形でリスタートすることになったんですね。

真由美さん:「お客様から『ご夫婦でやれていいですね』ってお声や、逆に『ずっと一緒で大丈夫?』なんてお声をいただくことも。確かに、ずっと一緒だとお互い、うーってときもあるけど、私は、単純に自分の好きなひとと仕事も共有、家庭も共有できることがすごく幸せなことだと思ってる。長くいればいるほど楽しいし、本当に仕事を通してさらに頼れる面を発見できたりするから、いつもありがたいなと」

−ご主人はどうですか?

潮人さん:「ああ、そ、そういう感じです!笑」



娘から見た、働く親の背中。

―小さかった2人の娘さんたちは現在、高校生と小学生。今のお二人をどう見られているんですか?

真由美さん:「パパとママは家でも仕事でもいつも一緒で仲良くていいよね、って。具体的にはないけど、応援してるっていつも言ってくれるのが本当にうれしい。こないだ小学生になる次女が、『はやく大人になりたい』っていったの。なんで?って聞いたらね、『だってパパとママは大人やん?お仕事しててもパパとママすごい楽そうやん』っていうの。なんか一瞬ガクッとなったんだけど、それって“パパとママは楽そう=楽しそうに仕事してる”ってこの子は捉えてるんだって。それは良いことなんじゃないかと思って安心したの。もちろん仕事って、楽しいことばかりじゃなくて、見えてない大変な部分ってたくさんあるけど、まだ小さいしそこは感じ取ってないみたいで」

潮人さん:「パパとママ、すごい大変そうやから大人になりたくないって言われるよりさ、なんかすっごいうれしかったね。まあ、大変なんやけどね。笑」

―実店舗OPENから1年。お店の空間を活用してのワークショップやイベント「オトナノミクロ」も大盛況ですね。お店としてのこれからを教えてください。

真由美さん:「この1年、お店を持ったことで、人との繋がりが広く、深くなりました。たくさんのお客様やイベントで一緒に仕事をする仲間に出会えたことはわたしたちの財産です。これからも、お店を通して、お客様に喜んでもらえる商品や出店者との出会いをここから作っていけたら、とわくわくしています!」

2人で人生を考えたあの日から、今日までを振りかえっていただいたインタビュー。『やっぱりやってよかったですか』と聞いてみたところ、『100%やってよかった、やらんかったらめちゃくちゃ後悔したやろな…』と笑う潮人さんと真由美さん。“キャリアはないけどこんな仕事で生きていけたらいいな”という想いを持っている人はきっと多いはず。一緒に一歩を踏み出すと決め、試行錯誤してきた日々を乗り越えたのはご夫婦の固い絆でした。想いを形にした“ちいさな箱”にお子様のとっておきを見つけに、ご夫婦のあうんの呼吸を覗きに、お出かけしませんか?

【ミクロアパートメント】
http://microapartment.jp
福岡県福岡市城南区鳥飼4-1-37 さとるビル1F
TEL:092-981-6944
営業時間:11:00-19:00
定休日:火曜

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